医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『救急科医』編(その2)を取り上げます。
オールラルンダー的なスキルと体力、社会的使命感が求められる
救急科医に求められている資質や適性とは、どのようなものでしょうか。
まず大切になるのが幅広い素養です。救急医療の現場では、内科や外科といった従来の縦割りの診療科の知識・技術だけでは通用しません。どんな疾患にも対応できるように、多様な診療科の関連知識を備え、柔軟に対応できる力、いわばオールラウンダー的なスキルが要求されます。
当然、そのためには相応の経験知が不可欠になります。ER型救急では、研修医も修練の場として携わっているようですが、やはり主導的な役割を担っているのは相応に経験を積んだ医師です。
なお、日本救急医学会が認定する救急科専門医になるためには、2年間の初期臨床研修修了後、同学会が定めるカリキュラムに従って3年以上の専門研修を修め、資格試験に合格することが条件になっています。
もう1つ大きな要素になるのが体力です。救急医療の現場がきわめて過酷であることは改めていうまでもありません。ある程度、若いうちでなければ救急科医を務めるのは難しいでしょう。実際、救急科医の平均年齢は40.6歳と、全診療科の中で最も低くなっています。(全診療科の平均は48.9歳)
その意味では、男性に向いた診療科ともいえそうで、男女比は病院88.5:11.5 診療所87.5:12.5と、男性の方が多めになっています。とはいえ、女性医師が1割以上を占めていることも事実です。単純な体力勝負の世界ではなく、’命の最前線’で人々を救いたいという社会的使命感こそが求められると思われます。
また、救急科医の開業率は2.0%で、全診療科の中で最下位で、しかも圧倒的に低い数値になっています。救急患者を受け入れるには、相応の規模の病院であることが必要で、救急科として開業するのは難しいことが要因です。ただし、将来、開業医をめざす人にとって救急科医が適していないかというと、けっしてそんなことはありません。
前述したように、救急科医にはオールラウンダー的なスキルが不可欠です。それを生かして、救急科医として活躍した後、ある程度の年齢になってから他の診療科で開業するケースも見られるのです。その意味では、将来、開業を視野に入れているのなら、救急科医を務めているときにも、自分なりの専門分野をサブスペシャリティとして備えるように意識することが大切です。
迅速かつ柔軟な判断で命を救う救急医療のスペシャリストが救急科医です。
※この記事は「メディカルラボ通信 2014年.vol.3[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回、『救急科医』編(その3)では「救急科関連の教育・研究」についてお伝えします。