医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『救急科医』編(その1)を取り上げます。
ER、集中治療、災害派遣などの救急医療の最前線で活躍
大規模災害や大事故が発生した際に、現場に派遣されるのが災害派遣医療チーム(DMAT)です。医師、看護師、救急救命士、薬剤師、事務職などで構成されており、これまでに東日本大震災、秋葉原通り魔事件、笹子トンネル崩落事故などに派遣されました。
2005年に厚生労働省が「日本DMAT」を設立したほか、都道府県単位のDMATの配備も進行しています。テレビドラマ「Dr.DMAT」でその活躍ぶりを見て、同じように救急現場に携わりたいという夢を膨らませている人もいるでしょう。
ただし、救急科の医師の役割はそれだけではありません。救急科専門医を認定している日本救急医学会では、「病気、けが、やけどや中毒などによる急病の方を診療し、病気やけがの種類、治療の経過に応じて、適切な診療科と連携して診療に当たる」と定義しています。
具体的には主に以下の3つの役割を担っています。
①ER(Emergency Room)での業務
ERは救急患者が最初に訪れる場所です。救急車搬送をイメージするでしょうが、自力で来院した救急患者にも対応します。救急科医は、これらの救急患者の初期診療を担当します。その際、重要になるのが疾患の種類と緊急度を、迅速かつ的確に判断する力です。必要に応じて各専門の診療科に移送したり、より緊急の場合は蘇生措置を並行して行ったりと、柔軟な対応力が求められます。
大事故などで複数の患者が搬送された場合には、トリアージ(重傷度に応じて、治療する患者の優先順位を決めること)も要求されます。つまり、救急科医は救急救命室におけるコンダクター的な役割を果たしているわけです。
②集中治療
外傷が全身に及んでいたり、広範囲の熱傷の場合、あるいは急性中毒、敗血症、多臓器不全など、病態が重症な救急患者に対しては、集中治療室(ICU)で治療を進めます。その際のイニシアチブは救急科医が務めるケースが多くなっています。重症患者の場合は、専門の診療科の医師の到着を待つ時間的な余裕がありませんし、病態が広範囲に及んでいるケースでは救急科医の方が経験豊富なことが多いからです。たとえば、脳挫傷、腹腔内出血、大腿骨骨折を合併した多発外傷には、従来の各科診療では対応が困難です。持続血液濾過透析(CHDF)などの血液浄化法や、人工呼吸管理など、最先端の機器を用いた集中治療に精通しておくことも重要になります。
③救急・災害現場への出動
救急科医が医療機材を搭載した救急車に同乗し、救急現場に直接出動して、患者に迅速で高度な救命措置を施す「ドクターカー」が全国各地で活躍しています。2001年からは「ドクターヘリシステム」も導入され、現在13道府県で運用されています。医療専用に設計されたヘリコプターで救急科医を現場に搬送することによって、早めに治療をスタートさせることができ、高い成果をあげています。
そうした活動の延長上にあるのが、前述したDMATなどの災害現場への出動です。東日本大震災のように、被災地病院の機能に甚大な被害が生じたと予測される場合は、非被災地のDMATがサポートする連携体制も構築されています。
迅速かつ柔軟な判断で命を救う救急医療のスペシャリストが救急科医です。
※この記事は「メディカルラボ通信 2014年.vol.3[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回、『救急科医』編(その2)では「救急科医の適性」についてお伝えします。