医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『整形外科医』編(その1)を取り上げます。
きわめて社会的ニーズの高い診療科
整形外科は、運動器官に生じた多様な障害を解決することを目的とした診療科です。その対象は、脊椎・脊髄、骨盤、上肢(肩、肘、手、手指)、下肢(股、膝、足、足指)など、運動器官を構成するすべての組織におよびます。また、新生児から高齢者まで、あらゆる年齢層が対象になります。さらに、手術療法だけでなく、薬物療法、理学療法、ブロック注射などの保存療法など、さまざまな方法を用いて治療に当たることや、リハビリテーションの専門家などとも連携して診療を進めるところに特色があります。
整形外科はきわめて社会的ニーズの高い診療科でもあります。厚生労働省の2013年度の「国民生活基礎調査」によると、男性の自覚症状の1位が「腰痛」、2位「肩こり」、5位「手足の関節の痛み」、女性は1位「肩こり」、2位「腰痛」、3位「手足の関節の痛み」と、整形外科領域の症状が上位に並んでいます。そのため、厚生労働省の「医療施設調査」の診療科別患者数によると、例年、整形外科は内科に次いで2番目に患者数の多い診療科になっています。日本整形外科学会では「今後、高齢社会の加速、スポーツ障害や外傷などの増加、ならびに労働災害や交通事故の多発に伴って、需要は一層高まる」と予測しています。
整形外科医に求められる資質は、何よりも明るく、前向きであること。そして、患者への面倒見の良さでしょう。肩こり、腰痛、関節の痛みなどは、当事者にとってはとても辛い症状です。交通事故などで損なわれた機能を回復するためのリハビリテーションも、簡単なことではありません。そうした患者を温かく励まし、一緒になってQOL(Quality of Life)の向上をめざす姿勢が要求されます。
また、厚生労働省の調査(2012年度)によると、整形外科医に占める女性医師の割合は、病院勤務が5.5%、一般診療所の開業医が2.7%と、低い割合に留まっています。けれども、高齢化に伴って増加している骨粗鬆症や変形性膝関節症などは、圧倒的に女性に多い疾患であり、今後は女性医師の活躍が望まれている診療科といえます。
なお、整形外科と混同されやすい診療科に形成外科があります。両者の違いは、整形外科が運動器官の機能回復・改善を主眼に置くのに対して、形成外科は身体表面の見た目のよくない状態の改善をめざすということです。火傷の治療、ケガや手術後の皮膚の傷跡、生まれつきのアザなどの治療が、形成外科の主な対象になります。容姿を整えることを主目的とする美容外科も、形成外科の1分野です。
- 自覚症状の上位5症状(人口1,000人対)
(男性)
1位 腰痛 92.2人
2位 肩こり 60.2人
3位 鼻がつまる・鼻汁が出る 50.9人
4位 せきやたんが出る 50.4人
5位 手足の関節の痛み 41.8人
(女性)
1位 肩こり 125.0人
2位 腰痛 118.2人
3位 手足の関節の痛み 70.3人
4位 体がだるい 59.1人
5位 頭痛 54.4人
※厚生労働省「国民生活基礎調査」(2013年度)より
※この記事は「メディカルラボ通信 2015年.vol.2[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は『整形外科医』編(その2)で「対象とする疾患の範囲が広い整形外科医」を取り上げます。