医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『産婦人科医』編(その2)を取り上げます。
人材不足が深刻な産婦人科医
周知の通り、産婦人科は小児科と並んで、人材の不足が深刻になっている診療科です。
厚生労働省の「医療施設調査」によると、産婦人科や産科を掲げている全国の病院は平成26年10月時点で1361施設(前年比14施設減)で、現在の形で統計を取り始めた昭和47年以降、過去最少となりました。
しかも、診療所の産婦人科医の平均年齢は60.4歳で、高齢化が進行しています。今後ますます産婦人科病院が減るのではないかと心配されます。(厚生労働省「平成24年医師・歯科医師・薬剤師調査」)
そのため、「出産難民」が社会的な問題になっています。出産を希望しても、近くに適当な産婦人科病院がないか、あるいは病院はあっても分娩予約がいっぱいで、受け付けてもらえない状況を意味する言葉です。少子化からの脱却が国家的な課題になっている中で、産婦人科医の不足が原因で出産を手控える傾向が生まれたとしたら、それはやはり望ましいことではないでしょう。
この点は行政サイドでも大きな課題と捉えており、産婦人科が敬遠される要因には、さまざまな事情が複雑に絡み合っているようです。
最も大きな要因は、厳しい勤務条件です。当然のことながら、計画分娩は別として、自然分娩の場合は時間帯を選べません。真夜中でも対応する必要があります。
また、婦人科系のガンや、帝王切開などの手術も担当するケースが多いことから、本来は体力のある男性向けの診療科といわれていた時代もありました。けれども、妊婦が女性医師を希望するケースが多く、現在は、他の診療科と比較して女性医師の割合が高くなっています。女性医師は自身の結婚・出産などで、一時的に離職する場合もあり、なおさら人材が不足してしまうわけです。
厚生労働省の報告書では、こうした問題を解消するために、さまざまな提言がなされています。たとえば、分娩のセンター化は、複数医師による診療体制を確立することで、勤務時間を調整し、仮眠・睡眠の確保を狙っています。過酷な労働条件の中で頑張る産婦人科医に報いるために、付加的給与の必要性が提言されていることも大きなポイントです。さらに、産婦人科が敬遠される原因の1つに、出産をめぐる医療の訴訟率が高いこともありますから、それを軽減し、患者・医師双方が納得できる接点を得るための「無過失補償制度」の検討も進められています。
今後、これらの提言は、順次施策に反映されていく見込みで、産婦人科医を取り巻く環境は少しずつ改善されていくことが期待できます。
※この記事は「メディカルラボ通信 2015年.vol.1[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は『産婦人科医』編(その3)で「生命倫理に関する深い学びも重要な産婦人科医」を取り上げます。