医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『産婦人科医』編(その1)を取り上げます。
妊婦・出産を扱うだけでなく、女性の一生を対象にする診療科
産婦人科というと、妊娠・出産に関する診療科というイメージを持っている人も少なくないでしょう。けれども、それだけではありません。
順天堂大学医学部の産婦人科学講座では、「産婦人科学は卵、精子から胎児期、新生児期、妊娠・分娩、産褥期、思春期、性成熟期、更年期、老年期まで、女性の一生を対象にする特別な診療科」と定義しています。実際、思春期、性成熟期、更年期などの肉体的・精神的変化は女性特有のものです。加齢と性周期によって、女性にどのようなホルモン環境の変化が起こるのか、よく理解していなければ、女性ホルモンの失調を原因とする病気に対応することはできません。また、子宮ガン、子宮肉腫、卵巣ガンなど、女性特有の病気を治療することも、産婦人科医の重要な役割です。
もちろん、妊娠の診断、不妊治療、周産期(出産前後の時期)の管理、新生児への対応など、妊娠・出産にも携わります。尊いいのちの誕生に立ち会うことができる、やりがいのある仕事ですが、その分、責任感も要求されます。また、出産後は、新生児特有の病気が生じる可能性もあり、小児科をはじめとする他の診療科との連携も重要になります。そのため、緊急を要する状況を見逃さない細かな配慮や、コミュニケーション能力も求められます。
このように、産婦人科は幅広い素養が求められるため、大学のカリキュラムも多岐にわたります。いくつか具体例を紹介しましょう。
順天堂大学の産婦人科学講座では、3・4年次の系統講義や5年次の臨床実習の中で、周産期学、生殖医療学、婦人科腫瘍学、臨床解剖学、不妊・内分泌学などを幅広く修得するように指導しています。生理、病態の理解だけでなく、診断、治療、手術法、検診、予防法にいたるまで、十分な対応力を身につけることが目標です。
岩手医科大学医学部の産婦人科学講座は、「婦人科腫瘍学(最先端のガン治療)」、「不妊・生殖内分泌(骨粗鬆症、高度不妊治療)」、「周産期医学(正常・異常妊娠)」を三本柱としたカリキュラムを編成しています。そのほか、近年増加している性感染症の対策にも取り組んでいます。「母児集中管理センター」で産科救急を学び、小児科医、麻酔科医とのチーム医療が重要になることを認識するなど、実習体制も充実しています。
東京慈恵会医科大学の産婦人科学講座は、産科、婦人科、生殖・内分泌の3つの部門を設置。産科部門では、正常分娩のほか、流・早産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、合併症妊娠などのハイリスク妊婦にも対応できる力を身につけます。婦人科部門では、卵巣ガン、子宮頸ガン、子宮体ガン、繊毛ガンなどに対して、エビデンスに基づいた最新の治療を修得します。生殖・内分泌部門では、附属病院に不育症部門と不妊症部門の専門外来が設けられていることもあって、両部門が緊密に連携を図りながら、患者の生児の獲得をめざしています。
※この記事は「メディカルラボ通信 2015年.vol.1[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は『産婦人科医』編(その2)で「人材不足が深刻な産婦人科医」を取り上げます。