医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『耳鼻咽喉科医』編(その3)を取り上げます。
耳鼻咽喉科について大学で何を学ぶのか
医学部入学後の耳鼻咽喉科関連に関して学ぶ内容を「医学教育モデル・コア・カリキュラム」をもとに見てみましょう。
構造と機能については、「外耳・中耳・内耳の構造を図示」「聴覚・平衡覚の受容の仕組みと伝導路の説明」「口腔・鼻腔・喉頭・咽頭の構造を図示」「喉頭の機能と神経支配の説明」「平衡感覚機構を眼球運動、姿勢制御と関連させて説明」「味覚と臭覚の受容の仕組みと伝導路の説明」ができるようになることが目標です。また、聴力検査、平衡機能検査、味覚検査、臭覚検査などの検査方法も習得します。さらに、難聴、鼻出血、咽頭痛、開口障害と反回神経麻痺(嗄声)などの症候をきたす疾患を列挙し、その病態を説明できるようにするとともに、下記<資料>に掲げた疾患の病因、診断、治療を理解することが到達目標になっています。
各大学の耳鼻咽喉科教室では、こうした多様な疾患に対応できるように、臨床実習の場でもある大学病院で、全領域を網羅した体制を構築しています。もちろん、それに加えて、大学病院ごとに特色ある診療を展開しています。いくつか具体例を紹介しましょう。
東京慈恵会医科大学は、1892年と、日本で最も早い時期に耳鼻咽喉科教室を開設した大学です。同教室で開発された鼻副鼻腔疾患における内視鏡下鼻内手術や、中耳疾患に対する聴力改善手術は高く評価されており、それらを普及させるための研修会が毎年開催され、全国から数多くの医師が参加しています。また、耳鼻咽喉科専用の手術室があり、内視鏡、最新の顕微鏡、レーザー、ナビゲーション装置など、最先端の医療機器を活用して、毎日4~7件もの手術を手がけています。年間の手術件数は約1,600件にのぼります。
帝京大学医学部耳鼻咽喉科は、初代の鈴木淳一教授が、中耳開放により病変を完全に除去した後に元通りのサイズに外耳道を再建する手技を開発するなど、とくに耳科学、聴覚医学分野の進展に貢献してきました。手術不能な患者に対しては、「聴覚言語センター」も併設しており、言語聴覚士と連携して補聴器を適合しています。さらに、補聴器も使用できないほどの高度難聴については、人工内耳を埋め込む手術を行っています。
久留米大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座は、腫瘍外来(鼻副鼻腔癌、口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭頸部食道癌、喉頭癌、甲状腺癌、唾液腺癌)、音声・喉頭外来(音声障害、呼吸障害、および嚥下外来を含む)、耳・側頭骨疾患外来(耳疾患外来、小児難聴外来、めまい外来、いびき外来、アレルギー外来)と、幅広い専門外来を開設しています。形成外科、食道外科、脳神経外科、放射線科と密接に連携を図り、他科とのチーム医療に力を入れている点が大きな特色になっており、根治手術治療を柱としつつ、放射線治療や化学療法なども必要に応じて併用しています。
<資料>
「医学教育モデル・コア・カリキュラム」
耳鼻・咽喉・口腔系の疾患に関する到達目標
・滲出性中耳炎、急性中耳炎と慢性中耳炎の病因、診断と治療を説明できる。
・伝音難聴と感音難聴、迷路性と中枢性難聴を病態から鑑別し、治療を説明できる。
・末梢性めまいと中枢性めまいを鑑別し、治療を説明できる。
・鼻出血の好発部位と止血法を説明できる。
・副鼻腔炎の病態と治療を説明できる。
・鼻アレルギー(アレルギー性鼻炎)の発症機構を説明できる。
・扁桃の炎症性疾患の病態と治療を説明できる。
・喉頭癌の症候、診断と治療を説明できる。
・う歯・歯周病とその全身への影響を概説できる。
・気管切開の適応を説明できる。
・鼻腔・副鼻腔・喉頭・咽頭・食道の代表的な異物を説明し、解除法を説明できる。
・顔面・頸部外傷の症候と診断を説明できる。
・唾液腺疾患を列挙できる。
※この記事は「メディカルラボ通信 2015年.vol.3[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は『眼科医』編をお伝えします。