医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『耳鼻咽喉科医』編(その2)を取り上げます。
QOLに直接影響する機能を担当する耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科の特色の1つは、QOL(quality of life :「生活の質」は、下記を参照)に直接影響する機能を担当していることです。
人間の五感のうち、聴覚、臭覚、味覚が耳鼻咽喉科の担当領域なのです。会話を楽しむために発声し聴く機能、食べ物を飲み込む嚥下機能、匂いを嗅ぐ機能、さらにはバランスよく歩くための平衡感覚などは、人間らしく生きる上で最も基本的な機能です。
そのため、耳鼻咽喉科医には、患者のQOL向上に直結する重要な診療科であるという使命感を持つとともに、つらい症状に悩む患者に優しく接する態度が求められます。
また、チームワーク力も耳鼻咽喉科医の重要な資質になっています。というのも、たとえば、日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科では、従来は治療不可能とされていた頭頸部の進行ガンに対して、形成外科、脳神経外科など、他の多くの診療科と連携し、拡大切除(治癒のため広い範囲を切除する手術)に挑戦しています。慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室は、様々な高度な手術に取り組むとともに、感音難聴や耳鳴り、めまい、および心因性難聴や機能性音声障害などの心因性疾患に対する治療にも積極的です。そのために、耳鼻咽喉科専属の言語聴覚士、臨床心理士も在籍しています。看護師を含めて、それらのスタッフと協力してチーム医療を進める姿勢が必要になるのです。
【QOL(quality of life)】とは、人生・生活の質。人間にとって、単に生きているだけでなく、人としての尊厳を尊重され、生きる喜びを感じて幸福に生きることがよい人生・生活であり、いかによく生きるかが追求されてきました。医療分野でもQOLの維持・向上を伴う治療が必要であると考えられています。1947年にWHOは、保険憲章の中で、健康を「単に疾病がないということではなく、完全に身体的・心理的および社会的に満足のいく状態にあること」と定義しており、これがQOLの考え方に当たると見なされています。医療上、治療に伴って運動能力の低下や食事、排泄などへの障害が生じるような場合もありますが、できるだけこれらの障害を少なくすることを意識した治療が患者のQOLを保つ上で望まれます。
※この記事は「メディカルラボ通信 2015年.vol.3[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は『耳鼻咽喉科医』編(その3)で「耳鼻咽喉科について大学で何を学ぶのか」を取り上げます。