医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『皮膚科医』編(その4)を取り上げます。
皮膚科医のニーズは、ガン治療と美容にも
今後の皮膚科医には、新たなニーズも生まれています。
その1つが、ガン治療に皮膚科医の協力が求められるようになっていることです。もともと「皮膚は内臓の鑑(かがみ)」といわれるほど、皮膚と内臓病変には深い関わりがあるケースが少なくありませんでした。また、内臓の治療のために投薬を続けると、必ずといっていいほど薬疹が出現します。
そして今、注目されているのが、分子標的薬を用いた抗ガン剤治療の際に、副作用としてあらわれる皮膚障害です。従来の抗ガン剤の多くは、正常細胞にも影響を与え、悪心、嘔吐、下痢、白血球数の低下、脱毛などの副作用が見られました。それに対して、分子標的薬はガン細胞に特異的に発現している分子のみを標的とするため、副作用が少ない抗ガン剤として期待されていました。
ところが、皮膚障害の副作用が出現することが分かってきたのです。せっかくガン治療に効果があがっていても、皮膚障害が重度になると、投薬を停止せざるを得ません。
そこで、東京女子医科大学、和歌山県立医科大学、国立がん研究センターなどの教員・医師が中心となって組織されたのが「皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議」です。皮膚科と腫瘍内科の医師、および看護師、薬剤師などが連携して、皮膚障害への最良の治療を施しつつ、抗ガン剤治療を続けられるようなチーム医療体制の構築を提言しています。
もう1つは、近年、疾患がある場合だけでなく、美容を目的とした皮膚科へのニーズが高まっていることです。「美容皮膚科」と呼ばれる分野で、シミやシワ、毛穴の開きなど、皮膚の老化を改善する治療のほか、メイクアップ・スキンケア指導なども実施しています。
日本皮膚科学会では、「医学的根拠のない美容治療」に陥ることを防ぐために、ガイドラインを作成しているほか、2008年から「美容皮膚科・レーザー指導専門医」の認定医制度を開始しています。ただし、皮膚科専門医の資格を有していることが受験資格になっているため、ハードルは高いのが実状です。
なお、美容皮膚科は、2008年の医療法改正で、医療機関が専門として掲げる診療科として認められたため、ここ数年で美容皮膚科の看板を掲げる開業医が急増しています。
一部マスコミで、比較的少ない患者数で高収入が望める診療科という報道もされました。けれども、一般の皮膚科と比べると、専用のレーザー治療器など、高額な設備投資が必要になります。また、非保険適用治療も多いことから、それなりの治療費が必要になり、その分、患者の要求も高くなると考えられます。そうした患者を満足させられるような立地や、院内の雰囲気づくりも重要になるでしょう。
最後に指摘しておきたいのは、皮膚科は生命に直接関係する疾患に対応することは少ないものの、患者のQOL(クォリティ・オブ・ライフ=生活の質)向上を担う重要な診療科だということです。
アトピー性皮膚炎、膠原病など、なかなか根治しにくい疾患もあり、それがコンプレックスになって、明るい生活を送れなくなっているケースも少なくありません。皮膚科医に何よりも求められるのは、そうした患者に寄り添い続けるやさしい姿勢なのです。
※この記事は「メディカルラボ通信 2016年.vol.1[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回をお楽しみに!