医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『外科医』編(その3)を取り上げます。
過酷な職場環境と“外科医離れ
ところで、外科はこれまで、医師にとって“花形”的な診療科とされてきました。手塚治虫の漫画『ブラックジャック』をはじめとして、近年の医療ドラマでも、『ドクターX』の大門未知子、『医龍』の浅田龍太郎など、外科医を主人公とするものが多く、あこがれの存在であったと思われます。
ところが、近年、若い医師が外科医を敬遠する傾向が見られ、“外科医離れ”が深刻化しています。当初は外科に所属しても、途中でドロップアウトして、他の診療科に移るケースも少なくないようです。
その要因としては、患者の生死に直結する診療科であり、医療事故などのトラブルへの不安があることや、職場環境が過酷なことなどがあげられます。その割には報酬が少ないとの声もあります。そのため、近年は外科医に特別手当をつけるなど、待遇改善を図る病院も出てきています。
とくに敬遠される大きな要因になっているのがハードな職場環境です。確かに、場合によっては10時間を越える手術に挑むこともあり、その間、立ちっぱなしで乗り切らなければなりません。その意味では、それに耐えられるだけの気力と体力、および日々の節制とトレーニングを欠かさない自制心を備えていることが、外科医の条件ともいえるでしょう。
ちなみに天皇陛下の手術を担当した天野篤先生は、年間の執刀数400以上という驚異的な数を誇っています。そのため、2012年5月に放送されたNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』では、30年以上も、月曜から金曜まで自宅に帰らず、医師室に泊り込んでいる姿が紹介されました。その膨大な経験知が、日本一と称される高い技術のバックボーンになっているわけです。天野先生は、若い頃、第一助手として立ち会った父親の心臓手術が成功せず、亡くされています。同じような病気の人を、自分の手で救いたいという強い思いが根底にあるのかもしれません。そうした使命感を持って、外科医をめざす若い医師が増えることが期待されます。
そのほか、外科医に求められる資質としては、手先の器用さも重要です。近年、手術ロボットの実用化が進行していますが、細かい部分では手技に頼らざるを得ないところも数多く残されているからです。そのため、アート的な要素の強い診療科ともいわれています。
最近の医学部では、「スキルスラボ」「シミュレーションラボ」といった名称で、シミュレータを用いた手技のトレーニングができる施設を設けるケースが目立っていますから、外科医をめざすのなら、そうした施設を積極的に活用して、在学中から十分にトレーニングを積んでおくことが重要になります。
また、外科手術は、「チーム医療」の最前線の現場でもあります。手術は外科医一人で行うものではなく、病理診断医や麻酔医、看護師などの協力が不可欠です。その中で、周囲の人々とコミュニケーションを図りつつ、リーダーシップを発揮できる力が求められます。
さらに、常に最新の知識・技術を学び続ける姿勢も大切になります。もちろん、これはすべての診療科の医師に共通することではありますが、外科の場合は、医療機器の発達などに伴って、手術の方法も進化し続けていますから、とりわけ重要になるといえるでしょう。
外科は職場環境が過酷ですが、患者の生死に直結する診療科であるため、やりがいはあります。
※この記事は「メディカルラボ通信 2014年.vol.2[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回は、『救急科医』編をお伝えします。