医学部を卒業して、医師国家試験に合格すると、自分が専門とする診療科を決めることになります。各診療科にはどのような特色があり、どんなタイプの人が向いているのでしょうか。
医学部入試の面接試験で、「将来は何科の医師になりたいですか?」と質問される大学もあります。
この連載では、診療科別に基礎知識として知っておきたいことをお伝えします。
今回は、『外科医』編(その2)を取り上げます。
外科の初期臨床研修プログラム
医学部を卒業して、医師国家試験に合格したら、平成16年から開始された新医師臨床研修制度のもと、2年以上の臨床研修が必修化されました。
ところで、大学の医学部では、外科に関してどのような臨床教育が行われているのでしょうか。岩手医科大学の外科学講座を例に、少し詳しく見てみましょう。
同大学の外科の初期臨床研修プログラムでは、まず局所解剖、腫瘍学、病態生理、栄養・代謝学、感染症、周術期の管理、集中治療などの基礎知識を修得します。その後、内視鏡検査、超音波診断など、外科診療に必要な検査や、術後疼痛管理、補正輸血、血栓症の治療、経腸栄養の投与と管理、抗菌性抗生物質の使用など、手術前後の管理について、臨床で応用できるレベルまで習熟します。
その上で、手術手技を学び、手術所見を記載できるようにします。修得する手術手技は、膿傷切開、良性腫瘍摘出、開腹、閉腹、胃瘻・腸瘻造設、小腸・大腸部分切除、鼠径ヘルニア根治術、大腿ヘルニア根治術、虫垂切除術、胆嚢摘出術、乳腺・甲状腺生検、良性甲状腺腫瘍摘出術、良性乳腺腫瘍摘出術などです。
また、この初期臨床研修プログラムを通して経験すべき病態・疾患として、下記の資料に示した多岐に渡る疾患が掲げられています。外科医になると、このような疾患に立ち向かうことになるわけで、学生時代から、実にさまざまな実地経験をして、将来に備える体制になっていることが分かります。
[岩手医科大学の外科]での、「初期臨床研修プログラム」で経験すべき疾患
●消化器外科
「食道ガン、食道アカラシア、逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、突発性食道破裂、十二指腸憩室、胃十二指腸潰瘍、胃ガン、潰瘍性大腸炎、Crohn病、虚血性腸炎、MRSA腸炎、大腸ポリポージス、大腸ガン、大腸憩室、急性虫垂炎、イレウス、痔核、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア、胆石症、胆嚢・胆管炎、胆道ガン、急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞、膵ガン、原発性肝ガン、転移性肝ガン、門脈圧亢進症、脾疾患、穿孔性腹膜炎」
●頚部、甲状腺、上皮小体
「正中頚嚢胞、外側頚嚢胞、亜急性甲状腺炎、Basedow病、橋本病、甲状腺機能低下症、甲状腺腺腫、線腫様甲状腺腫、甲状腺ガン、上皮小体機能亢進症、上皮小体腫瘍」
●乳腺外科
「急性乳腺炎、乳腺症、乳ガン、乳腺線維腺腫、Paget病、葉状肉腫、乳管内乳頭腫」
●小児外科
「腹壁・横隔膜疾患、消化管奇形、腸閉塞、急性胃腸炎、小児胆道疾患、誤飲、誤嚥、ヘルニア、小児ガン、小児肺疾患」
手術が多く、すぐに命と直結することが多い外科は、さまざまな疾患の手術手技を学ぶ必要があります。
※この記事は「メディカルラボ通信 2014年.vol.2[診療科の基礎知識]」を編集したものです。
次回、『外科医』編(その3)では「過酷な職場環境と“外科医離れ”」についてお伝えします。